「味わい深い本物の美しさ」
特別な時間を過ごす宿

くろしお想

くろしお想は、和歌山県白浜町の小高い丘の上に位置し、白浜湾を一望できる立地にあります。
お宿のコンセプトは、「徒然草の第百三十七段から汲み取る、心で美しさの本質を感じる、という想い」。
白浜の自然、和歌山の素材・人々、旅を通じて本質と出会い、ありのままの自分と向かうことができる、という想いが込められています。
白浜の雄大な景色を取り込み、随所に自然の素材を使って空間を創りあげました。素材が持つ特性を見極め、手間暇掛けて加工し、適材適所で使う事が、心地良い空間を創ってくれるのではとの思いで計画しています。

所在地 和歌山県白浜町
期間 設計期間 2021.10-2022.12
施工期間 2023.01-2023.05
用途 旅館
構造規模 RC造(改修)

期待が膨らむアプローチと玄関

四季折々の美しさが彩るアプローチを抜けた先に現れるのは、宿の顔とも言えるロゴの入った暖簾と大谷石の壁。訪れたお客様を受け止め、宿の中へと誘います。

空間を絞ったエントランス

ポーチから続く大谷石の大きな壁が印象的なエントランス。正面のフロントは周りをシラス壁で仕上げ、まるで洞穴の中にあるように演出しました。フロントバックに掛かる紀州手漉き和紙の保田紙が、ダイナミックかつ豊かな表情でお客様をお迎えします。

ポーチとエントランスにまたがる坪庭空間は、丸石を敷き詰めて内外の境界が曖昧になるように計画しています。

白浜の街並みに臨む開放的なロビー

開口を絞り、天井高を抑えた落ち着きのあるエントランスとは対照的に、明るく開放的なロビー。外のテラス越しに白浜の街並みと海が広がります。雄大な景色を眺めたり、ライブラリーで選んだ本を読んだりと、思い思いに過ごしていただけるように、大きな畳ベンチや丸太ベンチ、丸太テーブルなど様々なくつろぎスペースをご用意しています。

太陽の光が溢れる爽やかな印象の日中とは異なり、夜は照明の光があたたかな雰囲気を演出します。
畳ベンチの一角には白良浜を思わせる白砂を敷き詰め、季節の草花を飾る演出スペースとしました。

ロビーで圧倒的な存在感を放つ丸太ベンチと丸太テーブルは、この地で育った推定樹齢100年を超える杉の大木を加工し、丸太そのものが持っていた荒々しさや力強さを残したまま、美しく気品高く仕上げました。大木の息吹を感じ悠久の時を感じながら寛ぐことができます。

竹が彩るレストラン

レストランでは、元々の高い天井の下にもう一段、格子状の竹天井を新たに設けました。空間を華やかに演出するのはもちろん、テーブル周りの空間をスケールダウンし、竹の間からさりげなくテーブルの上に照明を落とすことで、落ち着いた雰囲気の中でお食事を楽しんでいただけます。

天井だけでなく、視線を緩やかにカットするためのパーティションにも竹を用い、窓際の障子にも柾割竹を用いています。

窓の外の景色を眺めながらお食事を楽しめるカウンター席は、ゆとりのある十分な奥行きを確保しました。カウンターの天板は、地域で伐採されたあかね材を使用しました。

白浜の自然を感じる、大浴場

既存の浴槽の形に沿って曲面の壁を設け、内湯と半露天風呂を計画しました。曲面の壁によって内湯のお籠もり感を作り出し、落ち着いた雰囲気の中で温泉を楽しむことができます。内湯に浸かると湯面越しに、自然の石と白砂で構成された近景、緑溢れる庭園の中景、そして遠景の白浜の田辺湾までを、一つの絵画のように眺めることができます。

石や木、砂、焼物のタイルなど自然の素材を随所に使い、小さいながらも豊かな空間を計画しました。

半露天風呂では、目隠しを兼ねた格子越しに自然の風を感じ、緑豊かなお庭を望む事ができます。

木に囲まれた静謐な空間、貸切風呂

浴槽はシンプルで大きな国産ヒバ材の浴槽、壁は国産杉材と、木に囲まれた温もりのある貸切風呂を計画しました。前庭の簾を通して注ぎ込む光や風が心地よく、静謐な空間の中で温泉を楽しむ事ができます。

竹で柔らかく仕切られた、ガーデンビュースタンダード1F

畳敷きの床から浮遊しているように見えるベッド台は、竹林によって柔らかく仕切られ、部屋の広さを損なうことなく、適度なお籠もり感を感じることができます。

景色を重ねる木の壁、ガーデンビュースタンダード2F

門形の木の壁で景色を切り取る事により、景色が幾重にも重なる空間を計画しました。サッシ前の門形の木壁によって外の景色が切り取られ、居間と寝室を仕切る手前の門形の木壁によって寝室が切り取られ、一つの絵となります。一段下がった居間のソファクッションで寛ぐと、コンパクトな空間ながらも、それぞれに切り取られた絵が重なり、奥行きを持った眺めを楽しむことができます。

瞑想の空間がコンセプト、景色を切り取るジュニアスイート

半露天風呂付きのジュニアスイートでは、間接照明のやわらかな光に包まれた白い寝室と、温もりを感じる木板で囲まれたお篭り感のある居間という二つの場所を創りました。全く違うようでいて実はどちらも、一緒に訪れた人や自分自身と向き合って過ごしていただくための瞑想の空間というコンセプトでデザインしています。

板張りの壁と天井は景色を効果的に切り取る額縁にもなります。

洗面台、パウダーコーナー、冷蔵庫や茶器コーナーを1箇所に集めたユーティリティスペース(左)と外の風を感じながらゆったりと過ごせる半露天風呂(右)。

photo:Akiyoshi Fukuzawa

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